『MIX』最新刊情報
『MIX』最新第20巻
【あらすじ】
投馬、走一郎、音美。悲しみを胸に季節は秋 夏の高校野球東東京大会、明青学園は決勝に進出! 甲子園まであと1勝に迫る中、投馬の実父が亡くなってしまう。投馬がマウンドに上がることなく、敗れた明青学園。投馬、走一郎、音美それぞれが悲しみを胸に抱え、季節は秋へ―――
投馬の実父 英介の突然の死。
あだち充の最新作『MIX』で衝撃の展開が描かれました。『タッチ』の正統な続編であり、その『タッチ』をはじめ、多くの あだち作品のセルフオマージュのような設定、場面展開が散りばめられている本作『MIX』。
その中でも、まさしく『タッチ』の最大のセルフオマージュ(と思われる)、もうこれを超える衝撃はないであろう展開が、主人公 立花投馬の実の父 立花英介の突然の死でした。
実は、『MIX』の各エピソードの感想記事たちは本ブログではトップクラスにアクセス数が高い記事群なのですが、中でも英介の死が判明したエピソードの感想記事はいまだに全記事内でもトップクラスのアクセスがあります。英介の死については、いくつかのエピソードにまたがって少しずつ明かされていった(特に死の事実が明かされてから、死因が明かされるまでに数話かかった)ので、おそらく 多くの人がこの衝撃の出来事がどのような展開の中で描かれたのかを知りたがっているのだと思われます。
そういうわけで、本記事では”立花英介の死”に関して、改めてまとめて見ることにします。
・英介の死が明かされたのは何話?どのように明かされた?
・英介の突然の死の原因は?事故死?病死?
・英介の死が周りに与えた影響は?
・英介の死に関する重要な出来事の時系列まとめ。
などについてまとめていきます。英介の死は『タッチ』へのオマージュかどうかについては別の記事にまとめます。
*英介の死に関連するエピソードは単行本第19巻に収録されています
『MIX』第19巻
・英介の死が明かされたのは何話?どのように明かされた?
英介の死は突然訪れます。もちろん後述するように読者にはなんとなく匂わせるような描写はありますが、特に作中視点では、誰一人予想だにしていない突然の出来事として描かれています。
その死について初めてはっきりと言及されたのは第110話です。
物語としてはその前話109話まで、投馬たちの2度目の夏 甲子園地区予選準決勝の勢南戦が描かれていました。西村との激しい投手戦を繰り広げた末、明青学園が勝利して決勝へとコマを進め、もう一つの因縁の相手である健丈との直接対決を控える、と言う最高潮の盛り上がりを見せていたところです。
第110話の冒頭では突然場面は飛んで、甲子園の熱気からはかけ離れた何気ない日常の一コマが描かれます。買い物へと出かけた投馬は途中で原田と遭遇し、原田の実家へと無理やり連れていかれます。原田家の何気なく会話を交わすうちに、ふと目線を時計へと向ける原田、その時刻は12時50分でした。
そして一言。
“ちょうど、この時間だったな。勢南戦でおまえが西村にホームランを打たれたのは… そして、親父さんが亡くなったのも…”
そうして、この一言で読者は初めて英介の死を知ると同時に、それまでの小さな違和感の一つ一つが一気に腑におち、おそらく多くの人が”ああ、やっぱりか”と感じたことでしょう。
ちなみに、直前の第109話の終盤では、ラーメン屋の間崎竜一がトイレに行く英介から荷物を預かるものの、そのまま帰ってこないという描写や、結局 英介に届くことのなかった携帯が鳴り、音美が着信を取る描写など、英介の死を連想させるような描写が描かれています。
・英介の突然の死の原因は?事故死?病死?
上記のようにして明かされた英介の死ですが、英介はなぜ死んでしまったのでしょうか。また別記事で詳しくまとめますが、英介の死では『タッチ』の和也の死を彷彿させるような描写がいくつかなされています。
では、和也同様に事故で亡くなってしまったのでしょうか?
実は英介の死因が明かされたのは、英介の死が明かされた第110話からさらに3話進んだ後の第113話になります。
英介の死因は”心筋梗塞”。西東京大会準決勝 明青学園vs.勢南の試合のあったその日、神宮球場のトイレで突然倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいます。その時刻は原田が言っていた通り、12時50分。その日、敵である西村が”こんな日のあいつに当たった俺たちが不運なのか?”とこぼすほどの圧倒的な投球を見せた投馬が唯一の失投(第108話”急に涼しい風が吹いて来て、全身の力が抜けた”と話した一投)を放ち、西村にホームランを打たれたちょうどその瞬間のことでした。
家に忘れていった携帯も英介に届けられることはなく、さらに荷物も間崎に預けていたため、倒れた時点で身元を証明するものを何も持っていなかったため、自宅に連絡があったのはその日の夕方。家族たちも死に目に立ち会うことすらできなかった、まさしく突然の急死でした。
ちなみに、英介は”会社の健康診断でも毎年まったく異常なし健康を絵に描いた中年親父”だったそうです。
『MIX』の連載がコロナでの一時休載を挟んだことを踏まえると、英介の突然すぎる死も、当たり前だと思っていた日常が急に崩れると言う、何かそんなメッセージが込められているのではないかと思ってしまいますね。
・英介の死が周りに与えた影響は??
まさしく突然であった英介の死。ひょうきんで明るかった彼の死は立花家はもちろん、周りの身近な人々にも少なからぬ影響を与えます。英介の死が身近な人間に与えた影響を簡単にまとめてみます。
・立花投馬
特に実の息子である投馬は、英介の死によって唯一の血縁を失うことになる。もちろん、立花家の音美、走一郎、真弓はそれまで通りに投馬に接し、家族間は仲の良いままだが、その家族の中で投馬だけが血縁関係のない存在となってしまった。実際、英介の死後 家族の中で疎外感を感じているかのような描写もなされている。
表面上は以前通りに飄々とした振る舞胃を見せるが、実は英介が死んでからは、毎晩のように どこかへと去っていってしまう英介の姿を夢に見るようになりうなされており、そのため遅刻も多くなる。英介の死に対し、まだ素直に泣くことはできていないらしい。
第116話「やだよ」では音美と二人きりで英介の死について話す場面があり、その際に”一番泣けないんだよ、お前の前が 情けないとこみっともないとこを世の中で一番見せたくないやつだからな”と明かしている。とはいえ、音美に本心を明かしたことで気持ちの整理はついたようで、その後 秋季大会ではエースとしても調子を取り戻している。その姿を見て”ふっ切れたみたいだな”と話す大山監督に対し、春夏は”ふっ切れたというより しっかり背負ったんだと思うよ お父さんの思いを”と答えている。
・立花真弓
子供たちの前では気丈に振る舞い、涙を見せないようにしているが、実は陰で一人泣いている。また、前日にトイレットペーパーを買ったことを忘れて、投馬にトイレットペーパーのお使いを頼むなど、心ここに在らずといった状態も見られるほどに落ち込んでいた。
彼女を心配して、友人である月影渚(春夏の母)がちょくちょく顔を出して話し相手になっていたそうで、第115話「ダメでしょ」では、二人きりの温泉旅行に連れ出している。春夏曰く、子供たちの前では泣けない真弓も、子供たちがいないところで渚と二人きりなら素直に思い切り泣けるのではないかと…。旅行の後は、多少なりとも気持ちは回復した様子。ちなみに、彼女にとっては英介の死は、2度目の夫との死別となる。
・立花音美
実の父を失った投馬のことを誰よりも心配している。また、傷心の母 真弓のケアのため、今まで以上に家事の手伝いなどをしている。表面上は以前とそれほど変わらないように振る舞っているが、ふとした瞬間に英介との思い出を思い出し感傷的になる様子も描かれる。
英介の死に際しては、”親父のためにおまえがあんなに泣いてくれる思わなかった”とお礼を言うほどに泣いた。本人曰く、実の父親の時に泣けなかった分も合わせて”二人分”泣いたとのこと。英介の話をすることを思い出し涙する”大好きだったもん いくらだって泣けるぞ。”
・立花走一郎
英介の死そのものに関しては、他の家族メンバーほど衝撃を受けていはいない様子。英介の死の翌日の西東京予選決勝でも普段通りの冷静なパフォーマンスを見せ、投馬に”いつもと何も変わらねえんだな、おまえは”と言われ、”初めてじゃねえからな父親を亡くすのは。それに本当の父親じゃねえしな”と返している。
投馬の様子をしっかりと見てはいるものの、実際には”心配するのは自分の役目ではない”と投馬の心配は音美に任せ、自分はいままで通りに接するようにしている。母 真弓の心配はしており、用がなくても家に電話をするなどしているらしい。
・大山吾郎
英介の同学年で、明青学園野球部で3年間を共にした吾郎は、英介の突然の死をなかなか受け止められなかった一人。高校時代からの親しい友の死の悲しみに、娘の春夏から身体を壊してしまうからと禁酒命令が出るほどに酒に溺れてしまう。四十九日が明けたら酒を控えると誓い、秋季大会前には一時的な禁酒生活に入る。
英介の死の影響で、やや弱気に”もしもの時”を考えた指導を始めようとするも、自分の一番の武器が”根っからの楽天家だって事”だと英介にも言われたと思い直し、徐々にらしさを取り戻していく。部室に英介の仏壇を置き、絶対に英介を連れて甲子園に行くと決意を固める。
・英介の死に関係する出来事の時系列(描かれた順)。
英介の死に関連のある描写やフラグのようなものを時系列(描かれた順)でまとめておきます。
第101話 あとふたつ: 西東京大会準決勝の朝、球場に向かった英介が携帯を家に忘れる。
第102話 あれは…誰だ?: 立花家で準決勝 明青・勢南の開戦を待つ真弓と渚が、明青が決勝に進んだら二人で球場まで観戦に行く約束をする。
第103話 ちょっとだけ: 音美が応援しながら球場を見渡して英介を探すが見当たらない。
第104話 いい顔してますね: 真弓から英介の携帯に電話がかかってくる。音美の手元にあるので音美が出る。
第105話 14!: 原田と間崎が球場の自販機前で遭遇する。(後ほど間崎と英介は一緒にいたらしいことがわかる)
第107話 え?: 12時50分、投馬がふと時計に目をやる。その後、投馬の失投を西村がホームランに…。←のちに同時刻、英介が亡くなっていたことがわかる。
第108話 ベストゲームだよ:ホームランを打たれた一投について、投馬が走一郎に”急に涼しい風が吹いて来て、全身の力が抜けた”と話す。←いわゆる虫の知らせのようなものだったと思われる。
第109話 あとひとつ: 試合終了後、原田が誰かを待っている間崎に出会う。間崎は英介がトイレに行くと自分に荷物を預けたまま、戻ってこないと話す。吾郎が英介の携帯に電話をかける。音美が受け取り、再び英介の手に携帯が届いていないことがはっきりと描かれる。
第110話 この時間だったな: 予選大会終了からある程度時間がたったある日の昼頃。投馬と何気ない会話を交わす原田がふと時計に目を向けると、12時50分。原田の口から英介の死について触れられる。“ちょうど、この時間だったな。勢南戦でおまえが西村にホームランを打たれたのは… そして、親父さんが亡くなったのも…”。立花家に安置された英介の仏壇が描かれる。
第111話 あいつだけに: 時間は前後して、英介の死んだ翌日の決勝戦。投馬がマウンドに上がらないまま、明青と健丈の戦いは終わる。ラーメンドラゴンで酒浸りになる吾郎の姿が描かれる。
第112話 変わりなく:投馬が英介がどこかへと去っていってしまう悪夢にうなされる。投馬が真弓の誕生日をすっぽかす。
第113話 大丈夫!:英介の死因が明かされる。
第114話 覚悟しとけ:吾郎が部室に英介の遺影を飾り、甲子園へと臨む覚悟を改める。
第115話 ダメでしょ:ある土曜日、落ち込む真弓を励ますべく、渚が泊まりの温泉旅行に連れ出す。真弓たちを見送った音美が、ふと二階の窓を見上げ、英介の在りし日の姿を思い出す。”ダメでしょ。本当に死んじゃ…”
第116話 やだよ:投馬が家族からただ一人取り残される悪夢を見る。投馬と音美が二人きりで英介の死について話をする。
第117話 頼んだぞ:引き続き二人きりで話をする投馬と音美。話の内容は昔の思い出に。酔っ払った原田が立花家に間違ってやってきて、英介の仏壇に手を合わせる。音美に投馬のことを頼んで去っていく。
第117話以降は、全員が徐々に英介の死の悲しみを乗り越えいき、次に迫る秋季大会へと向けて集中していきます。