・京都三大付喪神”本庄の雅楽寮”
京都三大付喪神の一つ。”長月の婚礼調度”、”佐野の大具足”に並ぶ力を持った強力な付喪神。雅楽器を器とする三人の付喪神 琵琶の爪弾、竜笛の吹枝、鞨鼓の鼓からなる付喪神集。御三家八衢家の預かり。お務めに関しては詳しくは述べられていないが”追跡”のお務めと話す場面がある。
彼らが八衢家についたきっかけの一つとして、八衢紅緋の存在があったと語られている。八衢の一族の中でも鬼子と見做された不世出の強者である紅緋、雅楽寮を相手にたった一人で一進一退の大立ち回りを演じた彼女に興味が湧いたらしい。
薙曰く、元々が楽器の付喪神のためやかましい。楽器の付喪神として”聴かれる”ことを本懐としており、また”自分の置かれている状況に対して 争い壊し突き進み 己を高らかに叫ばんとする流儀”という独自の哲学”ロック道”を持っている。
同じく三大付喪神の一つである婚礼調度に対しては、ぼたんを守るという信念のもと”同族狩り”も辞さないというその姿勢に自分達に通じるロック道を感じ、認めている。また、兵馬に関してはその噂を聞き興味を持っていたが、その後実際に出会ってからは どんな苦境にあっても己を叫び続ける兵馬のことを気に入り、高く評価している。
ちなみに演奏する楽器はなぜか吹枝 意外は己の器となった雅楽器ではない。また演奏するジャンルも雅楽に限らず、グランジやプログレなど幅広いジャンルを試している。作中で彼らが雅楽を演奏したはっきりとした描写は吹枝の奏た”小乱声”のみである。
雅楽寮(ががくりょう)だが、本人たちは自分達のことを”うたつかさ”と呼ぶことがある。
・“爪弾(つまびき)”
琵琶の付喪神。右目に眼帯をした矍鑠とした老婆の姿をしている。長い髪を左右二つに分けて結っており、後ろ髪は琵琶の海老尾、転手、柱を彷彿とさせる意匠に結い上げている。
雅楽寮のリーダー的存在で、ボーカルとギター担当。自分のことは”婆(ばば)”と呼ぶ。指先から出した琵琶の弦を自在に操る。本気の際は、左右に結衣分けた髪を手に持ち、右を撥に左を弦に変形させて戦う。弦を撥で弾くことで、音波を放つこともできる。更に、周波数を調整して鼓膜に直接ダメージを与えるなどのえげつない使い方も可能。
どんな壁にぶつかっても折れることなく自分を貫く兵馬のことをいたく気に入っている。
・“吹枝(ふきえ)”
竜笛の付喪神。詰襟をきた青年。非常に目つきが悪く、しょっちゅう警察の職質を受けるらしく、同じく目つきの悪い兵馬にはシンパシーを感じ、協力的な態度をとる。
演奏は笛を担当。その笛の音を聞いた付喪神を傀儡化するという非常に強力な能力を持つ。また、肩がけにした布を変形させ、複数の笛が連結したような巨大な笛を作り出し、ガトリングガンのように圧縮した空気を打ち出すことも可能。
・“鼓(つづみ)”
鞨鼓の付喪神。筋骨隆々な男性。常に全力投球の熱血漢らしい雰囲気を持ち、豪快な性格。喋るときは唾が飛ぶ。
演奏はカホンを担当。腕を張り手のように突き出すことで、空気を圧縮した衝撃波のようなものを放つことができる。
ここからは物語の重大なネタバレが含まれます。カーソルで選択して反転させてお読みください。
・ネタバレ その1 雅楽寮の正体とその目的
雅楽寮は唐傘と繋がっており、ヒトとマレビト、異なる世界に生きる魂を宿し、常世と現世の間に立つ ぼたんを”鍵”として使い、常世と現世を繋ぐ扉を開こうとしていた。
彼らの目的は、常世と現世を繋ぐ扉が開かれた際に生まれる混沌。その混沌こそが彼らの”衝動”には不可欠な舞台だという。その未だかつてないマレビト、ヒトが有象無象入り混じる世界で、その全てに自分達の音を響かせることこそが雅楽寮の悲願、そしてロックなのである。
実際、彼らは人間に対して害意があるわけではなく、むしろ”聴いてくれる存在”として有り難くさえ思っている。しかし、その器としての”より聴かせたい より多くに より大きな舞台で”という”衝動”のため、その願いに通じる道を脇目も振らずに突き進むことこそが、雅楽寮の在り方だったのである。
結果として、兵馬たちと敵対するという立場になったが、彼らもまた彼らの生き様、覚悟を貫き通しただけであった。そのためか、正真正銘 ぼたんを危険に晒した敵であるにもかかわらず、兵馬は(ぼたんも?)最後まで彼らに対して”敵への憎しみ”のような感情を抱くことはなかった。
・ネタバレ その 2 雅楽寮の最期
自らの信念に従い行動し続けた雅楽寮だったが、現人神の顕現により彼らの道は終わりへと向かう。
まず初めに門守大樹との戦いによって右腕を大きく損傷した鼓は、爪弾と吹枝の眼前で現人神によって”見苦しい”と”廃棄”されてしまう。その後、兵馬と婚礼調度の尽力で再び現人神が封じられた後、唐傘たちは撤退するが、爪弾と吹枝は”闘わねばならん理由ができた”とその場に残って殿を務める。そして、婚礼調度との総力戦にの末に二人とも破壊された。その決着は一瞬だった。
爪弾のいう”戦わねばならん理由”や、吹枝の挑発とも取れる言動、そして散り際の彼らの語りなどから、この婚礼調度との戦いは、雅楽寮にとって死に場所を求めた戦いだったのではないかと思われる。
散り際において、吹枝は”俺達をここで終わらせてくれたこと…礼をいう”と婚礼調度に向けて感謝を述べる。現人神に眼前で鼓を壊された際に、現人神の威光に屈指、足掻くこともできず、道を譲ろうとしてしまった彼ら。”屈すればそこで ロックは終わる”、自分達の覚悟を貫くことができなかった雅楽寮は自分達の潮時と、自らの幕を閉じることにしたのだった。
最期に爪弾は自分達よりも誰よりも己の意地を貫き通そうとした 兵馬に対し、”ヌシならその娘を守り通せる…とは言い切れぬ じゃが ヌシなら叫び続けることは出来よう どこまでも響もしてみよ 常世さえ震え上がらせるほどにな…”と言い残し、散っていった。
また、爪弾からの”褒美”として彼女の過去の記憶を、鏡の照妖鏡で暴き出している。その記憶は後に明かされる”ぼたんの神隠し”の真実に繋がる。
・更なるネタバレ 雅楽寮のその後
藁座廻たちに攫われた 長月ぼたんを救出するための黄泉路での戦いで、圧倒的な唐傘陣営の戦力に塞眼陣営は苦境に立たされる。絶体絶命の窮地に巫術百段 門守大樹の禁忌を犯した巫術 外式・傀儡符”鬼来迎”により、狭間に揺蕩う”縁ある魂”たちが再び戦場に呼び出されるのだった。
その際に、師範クラス放つ大規模巫術”久延毘古”を前にしてもなお、己を”響もし”た兵馬に応え、雅楽寮は兵馬の前に現れる。そして、その戦場を預かり 兵馬を先へと進ませた。