『もののがたり』最新刊情報
『もののがたり』第15巻
**2023年1月19日発売**
【あらすじ】常世と現世を繋ぐもの――“付喪神”。付喪神に奪われた青年・兵馬と付喪神を愛する少女・ぼたん。絆を深める二人の縁を引き裂くのは常世の奥底に生まれし存在“藁座廻”。門守の符術“鬼来迎”により召喚された、雅楽寮と八衢黒檀、そして挂の活躍により唐傘勢力を撃破していく塞眼たち。そして、婚礼調度は因縁の敵・時雨との最後の戦いを開始する――!! 絆と恋の付喪ノ語り、激闘必至の第十五巻。
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常世寄りの付喪神 唐傘”藁座廻”
**ネタバレ注意**本記事には物語の重要なネタバレが含まれます。ネタバレ回避のため、一部文章を背景と同一色にしています。反転してお読みください。
唐傘の付喪神。付喪神の中でも非常に特異な存在であり、複数体の唐傘が存在する。自分達のことを”藁座廻”と称し、”付喪神を束ねる神”である現人神の従者を名乗る。ぼたんの中に眠るマレビトを”禍時の君”と呼び、彼女を解き放つために暗躍する。その正体は、現世で朽ちた魂が常世に渡り 再び現世に生まれるのを待つために 洗い流され常世の奥底に堆積した罪、つまり魂の穢れ の中に生まれた”モノノ怪”であり、それらが器と結びつき、付喪神として現世に生まれ出た存在である。
ちなみに、”藁座”とは禅宗様建築にみられる開き戸の軸受けの事であり、それを”廻す”ということで、現世と常世の扉を開く存在であることを暗に示していると考えられる(*藁座は本来回す物ではないが…)。また一方で”藁座廻状”と呼ばれる一揆などの際に用いられた署名形式が存在しており、これは円を描いて放射状に署名する(傘を開いたように見えるために”傘連判状”とも呼ばれる)ものであり、署名者が互いに平等な立場にあることを明確に示すものとされている。このことから、藁座廻がそれぞれ個を持たない自我を排した常世の尖兵であり、同格の存在の集まりであることを示す意味もあると考えられる。実際、名持ちの四体の藁座廻には上下関係はなく対等の立場にあるように描写されている。
更に特異な点としては、通常 付喪神は自らの器となった物に由来する能力を得るが、唐傘はその器の範疇を越えた能力を有する。彼らの能力は”影を作る道具”という点から”影支配圏とする能力”にまで拡大している。傘の形態を様々に変化させて物理攻撃を行うことに加え、影とした領域を結界化したり、更に影に潜み、影から影へと移動する縮地術など多様な技を使用する。
更に名持ちの四体の能力は個々にその先があり、“傘で防ぐものを能力に転化”し、”悪天を纏う”能力を持つ。
更に、後に現人神によってその存在が引き上げられ、権能の一部である”現世に汚れを放つ”天恵を得る。
・時雨(しぐれ)
“藁座廻”の中でも名乗ることを許された “より常世の深きから現れでた”四体のうちの一体。作中で一番初めに兵馬やぼたんに接触した唐傘で、現世で最も表立って行動していた個体。”長月の婚礼調度”に固執し、自らの手で穢しつくしてやりたいと考えている。ごくたまに笑ったり、憎悪を表したりする他は基本的には常に無表情で感情が読めない不気味さを持つ。
その実力は非常に高く、三大付喪神の一つである婚礼調度を一人で相手どることができるほどである。藁座廻としては、作中で最も多く登場し、その内面も最も深く掘り下げられた一体。
・ネタバレ1 時雨の固有能力
時雨の纏う”悪天”は、その名の示す通り”雨”である。
・ネタバレ2 婚礼調度に固執する理由
付喪神とは”現世において迷い子”であると考え、何ら繋がりもないままに滲み出た孤(みなしご)である自分達 藁座廻は全てを穢し常闇と化すだけの存在であり、ただ”付喪神を束ねる神”さえいれば しがらみなど必要ないと、ただただ自分達を導く主たる現人神だけを求め 現世に存在していた。
一方で、婚礼調度は自分達とは対照的に、望まずとも 長月ぼたんという主を持ち、その瞳には現世で宿された情という灯火が煌めいていた。時雨は そのことが気に入らず、婚礼調度を自らの手で穢し尽くしたいと考え、彼らに固執することになる。
実は 常世の尖兵たろうとして自我を排していた 時雨自身が必要ないと断じた”しがらみ”こそが、本当は彼女が真に求めていた物であり、時雨の自我は自分の”居場所”を求めていたのだった。その事に、時雨本人は気づいてか気づかずか、どちらにせよ 自分が欲してやまない居場所や生きがいを何不自由なく手に入れている婚礼調度に対し拘り続け、心に渇きを覚えることとなったと考えられる。
・ネタバレ3 時雨の最期
黄泉路にてついに婚礼調度とそれぞれの存在をかけた一騎討ちを行う。
現人神から与えられた”天恵”をもって、婚礼調度を圧倒するが、戦いの中で同じく婚礼調度が天恵を得て、再び自分達と並んだことで心に更なる渇きを覚え、もはや沈みゆく世界を見ることも、現人神の傍に立つことも投げ打ち、ただ自分自身のために命に変えても婚礼調度を殺すことを誓う。
最終的に、婚礼調度との真っ向からのぶつかり合いに敗れ散ることとなるが、最後の数瞬だけ 己が望みを持ち、ただ一人の”時雨”と成って常世の楔から解き放たれる。それまで自己を排し続けた時雨は、最後の最後に自分が己を持ったのだということを知り、満たされるのだった。そして”現人神の従者”であることが唯一の自分の”居場所”なのだと縋り続けた時雨は、最期の数瞬だけでも自らの生を生きたことに満足し、笑いながら散っていくのだった。
・吹雪(ふぶき)
“藁座廻”の中でも名乗ることを許された “より常世の深きから現れでた”四体のうちの一体。可憐な姿とは対照的い非常に口が悪いのが特徴。ある事情から塞眼御三家八衢家当主 八衢黒檀に固執し、更に八衢の一族を目の敵にしている。唐傘をランス状に変形させて使用する。
選り好みが激しい性格。ぼたんの外見を気に入り、もし現人神の憑座でなければ自分が”喰らいたい”くらいだとまで話す。
・ネタバレ1 吹雪の固有能力
時雨の纏う”悪天”は、その名の示す通り”雪”である。吹雪を引き起こすだけでなく、自らが触れた場所や息を吹きかけた場所を氷漬けにすることができ、その力を使い”滑走”することで高速移動も可能にする。
・ネタバレ2 八衢黒檀に固執する理由
時雨は黒檀のことを最初からずっと気に入らなく思っていた。特に黒檀の”野望と自信の薄暗い光を宿した”眼を気に入らずにいた。
黒檀曰く、吹雪が彼に執着し。苛立ちを覚える理由は、彼女が”個としての野望を持てない操り人形に過ぎないから”だという。常世に溜まった穢れが持つ「世を喰らい尽くす」という願いを叶えるだけの”装置”である藁座廻が”付喪神”の体をとって出てきてしまったことで、本来無用であるはずの性格を得てしまったために、その存在に矛盾が生じてしまう。その結果、吹雪は”選り好みが激しい”性格の割に、”何がしたいのか”を自由に思い描くことができないのだった。
・ネタバレ3 吹雪の最期
黒檀の指摘を受け、逆上した吹雪は、自分が”お日様の匂い”、”優しい光”といった器に宿った穏やかな現世の記憶を汚すことしか考えられないことに”穢れの涙”を流しながら唐傘で黒檀を貫く。
しかし、それは黒檀が自滅覚悟で吹雪の動きを封じる為に行った挑発であり、動きを封じられた吹雪は菫と紅緋による”生弓矢”開囓”を受け消滅することになる。散り際に黒檀から、彼が力を求めたきっかけを聞き、”フザけやがって”と悪態を吐きながらも満足げに笑いながら消えていった。ちなみに、このきっかけを語った一瞬のみ黒檀の瞳はかつての光を取り戻していた。
・凩(こがらし)
“藁座廻”の中でも名乗ることを許された “より常世の深きから現れでた”四体のうちの一体。お姉言葉を喋る長身の男性。藁座廻の中で最も残虐さが表面に出た一人で、嗜虐心が強く、相手を穢し、痛ぶることを至上の喜びとする。ある意味最も”穢れ”の本分に忠実といえる。
三大付喪神”佐野の大具足”と因縁がある。勝つためならば、手段を選ばないタイプ。
・ネタバレ1 凩の固有能力
凩の纏う”悪天”は、その名の示す通り”風”である。最早”天災”とさえ言えるほどの、風の刃を纏った巨大な竜巻を引き起こすことができる。
・ネタバレ2 “佐野の大具足”との因縁
八衢の引手を奪取する際、障壁となり得る”佐野の大具足 挂”を封じるため、凩は辻の屋敷に現れる。その際は、挂との直接対決はさけ、斎を傷つけることで挂を神域に閉じ込めることに成功する。
その後、塞眼が黄泉路へ突入した際は、単身 現世に現れ出て、塞眼たちの帰還の生命線を握る辻白百合を襲いにかかる。常世と現世の扉を閉じ切らない限界の隙間で維持し続けるため、反撃することはおろか、逃げることも、身動きすることすらできない状況の白百合を痛ぶる凩だったが、白百合の窮地に封印を破って現れた挂と再び対峙することとなる。
・ネタバレ3 凩の最期
本気を出した挂の力に圧倒され、頭部と脊柱のみにまで破壊される。”常世寄り”ゆえの常世から延々と供給される生命力によって、その状態でも なお風を纏い暴れ回ったが、最後は煽ら現世に生きる付喪神らが復元した八衢の”滅却の祭壇”に通されることで完全に消滅した。ちなみに、挂は凩に大ダメージを与えたところで、元々現世の動乱は自分にはさほど関わりないことであるから”自分がやってやるのはここまでが妥当”であり、現世のケリは現世に生きる賽眼達自身の手でつけろと闘いから手を引いている。
・天日(てんじつ)
“藁座廻”の中でも名乗ることを許された “より常世の深きから現れでた”四体のうちの一体。更にその四体の中でも中心的な役割を果たしていると思われる個体。
“ある事情(ネタバレ2を参照の事)”から登場初期から、その顔は長らく描かれずに伏せられ続けていた。
・ネタバレ1 天日の固有能力
天日の纏う”悪天”は、焦がすほどの”強い日差し”であると思われる。天日は”降り注ぐ強力な熱線”を自在に放ちその力は”炎天”と名付けられている。更にその身体はある人物のものであるため(ネタバレ2を参照)、その人物の能力をも使うことができる。
・ネタバレ2 天日の正体
その正体は始まりの唐傘”岐殺”が岐隼人を喰らった姿。唐傘は喰らったものを取り込み、その全てを手に入れることができるため、その姿は岐隼人本人のものである。本人の記憶も持ち、人格も生前の隼人の人格に準じるようなものとなっている。ただし、当然ながら本人そのものではなく、あくまで岐殺が器となっている隼人の人格をなぞっているに過ぎないようである。
更に、隼人の塞眼としての圧倒的な天稟をも手に入れており、更に片方ではあるが引手も所有しているため、岐式開門術の真髄”生大刀”はもちろん、隼人の天稟を持ってしか発動できなかった”乱れ開闔”までも使いこなす。
**ここから先は更なるネタバレがあります**
・陽炎(かげろう)
四体しかいないはずの名持ちの藁座廻の五体目。天日と行動を共にし、藁座廻の中で最後に現れた一体。
天日と同じく、その姿には秘密がある。
・ネタバレ1 陽炎の固有能力
陽炎の纏う”悪天”は、天日と同じく”強い日差し”だと思われる。ただし、陽炎の場合は降り注ぐ日差しの直接的性質ではなく、その日差しによってもたらされる熱である。陽炎とは日射によって熱された地面の上部に見られる局所対流が生み出す密度変化による屈折現象であり、唐傘”陽炎”は幻影を自在に操る能力を持つ。
・ネタバレ2 陽炎の正体
その正体は天日と同様に始まりの唐傘”岐殺”が岐鼓吹を喰らった姿。一つの唐傘がどのようにして二人の人間を取り込み、別々の個体として活動しているのかは不明だが、陽炎もまた器である鼓吹の記憶から能力まで全てを手に入れている。
隼人とはまた別系統の天才であった鼓吹は、誰の引手であってもその真髄に至ることができる。更に隼人の隣にいてその戦闘効率を更に引き上げる対応力と柔軟性、そのサポート能力において抜きん出ていた才能を備えており、その能力を陽炎が発揮することで天日との連携が噛み合い過ぎるほどに噛み合い、その連携は圧倒的な力を誇る。更にその力ゆえに、陽炎もまた片方しか引手を持っていないが、天日の持つ片方の引手と合わせて、”生大刀・千引”、そして隼人の”乱れ開闔”を再現することまで可能とした。
・禍津日(まがつひ)
始まりの唐傘にして、現世に染み出て侵食を始める穢れ。おぞましき”悪神”。岐鼓吹・隼人 姉弟を殺し、喰らった本人であり、そのことから”岐殺”と呼ばれていた唐傘。兵馬の仇であり、作品の最大最後の敵とも言える存在である。天日と陽炎の中に潜んでいた。
”禍津日”という名は日本神話において、伊弉諾が黄泉の国から帰った際に、禊を行い祓った”穢れ”から生まれたとされる神の名であり、その名は”災厄の心霊”を意味する。